四肢断裂ファクトリー

健康な手足です

新春あいうえお小説

「あ」
暖かい太陽が照らす気持ちのいい元旦の昼、俺はある目的を果たすためにここにいる。
俺は元旦の朝に産まれた。
炊かれ、叩かれ、水をかけられ、叩かれ
臼の中で産声を上げた。
すくすくと白く粘り気のある餅に成長した。

「い」
いい気分だった。
今までこうなるのを夢見ていた。
俺の体は裂かれ、分裂した。
一つ目の俺はみかんと出会い、鏡餅に。
二つ目の俺は餡子と出会い、お汁粉に。
三つ目の俺は醤油と海苔に出会い、磯辺餅に。
どの俺も特攻隊のように人々の口の中に飛び込んだいった。ある目的を果たすために。
しかし、結果は失敗。
だが奴らは潔く散っていった。
その姿を誇らしく見つめながら、俺は待っている。
残った4つ目の俺は誰と出会いどう変わるのか、待っている。
そして
俺は暖かい鰹の出汁風呂にダイブした。

「う」
運命の女神は俺をお雑煮にした。
鰹が俺を抱きしめるような心地のいい暖かさ。
ゆりかごのように出汁の中でゆらゆらと揺れる。
先客が歓迎してくれた。
白菜が主役の俺を胴上げし、鶏肉が踊り人参がキスをした。
最高だった。
お椀の中によそわれ、いよいよこの時が来た。
俺を見つめる二つの目。
白髪の目立つよぼよぼのじじい。
俺は箸でゆっくりと持ち上げられ、奴の口に運ばれていく。
散っていった俺の分身よ、見ていろ
俺がここで餅であることを証明してやる。

「え」
選ばれだんだ俺は。
とても運がいい。
水分を含んだ俺はとてものどごしがいい。
咀嚼されることなるすぐに喉の奥へと進むことが出来る。
そして、俺を口へ運ぶジジイ。
こいつこそが運命の人だ。
この出会いを神に感謝している。
視界は暗くなり、口の中に含まれた俺。

さぁショータイムだ。

「お」

「おいひぃ」
口の中で音が響いた。
食べながらしゃべるなジジイ。
だが、褒められるのは嫌いじゃない
鰹のだし汁を吸った俺は最高だからな。
咀嚼しようと歯が俺を挟む。
ここで裂かれ分裂されると、目的を果たしにくくなる。
早く逃げなければ。
奥へと必死に手を伸ばす。
唾液の力を借り、するりと歯をかわして
喉の奥へと急降下する
さぁ突撃だ。

「うぐっ」
ビクリと揺れる。
俺の存在意義を老ぼれジジイに分からせてやる
見えた、気管だ。
最後の力を振り絞りピタリと気管に覆い被さった。
これで俺の役目は終わり。
目的は果たされようとしている。
やったぞ、これでしじいは死ぬ
餅を喉に詰まらせて死ぬ。
これが俺の役目。
餅である証明である。
「うがが〜」
情けないジジイの叫び声が響き渡る。